放送番組審議会

第612回 放送番組審議会報告 9月16日(水) 開催

■出席者
見城  徹  委員長
田中  早苗  副委員長
(五十音順)
秋元  康  委員
内館  牧子  委員
小陳  勇一  委員
小谷  実可子  委員
小松  成美  委員
増田  ユリヤ  委員

■欠席者
丹羽  美之  委員
藤田  晋  委員

課題

「新型コロナウイルス報道とテレビの役割」

<新型コロナウイルス報道について>

●コロナ報道に正解はない。その時々に番組ごとのスタンスがある。その中で、事実は事実として伝え、こういう考え方もある、こういうことに気をつけなくてはならない、こんな危機が考えられるということは言わなければならない。コロナ報道では、情報・報道番組をテレビマンがどう作るか、真価が問われた。

●コロナ報道は番組の伝え方により、受ける印象が大きく違う。「スーパーJチャンネル」は落ち着いたトーンで、出演する専門家も前向きなコメントをしてくれるので、選んで見ていた。感染者数や陽性率などの情報はインターネットで見て、テレビの中には親しみを感じる人を探すようになった。

●コロナ報道では、「わからない」ということを声高に叫ぶべき時点がたくさんあった。「私達にもわかりません」と言うべきところで、何か材料を持ってきて「こうであろう」とか、「誰々はこう言っています」という逃げ方をしてしまった。テレビは人間が作っていて必死にルールや良心で精度を高めているが、万能ではないということをもう一度考えるべき。そのことが新しい形の報道番組、あるいはテレビというものを作るのではないか。

●詳しい状況がわからない中で、情報収集し、視聴者にとって最も有益と思われる発信をしていた。時に最悪の事態を想定した悲観的な情報もあり、本当に真実を伝えているのか苦慮もあったと思うが、丁寧に伝えていた。

●緊急事態宣言解除後、東京都の新規感染者が300人を超えた頃まで、テレビ朝日のコロナウイルス報道は非常に上手く行っていた。視聴者の疑問に答え、マスク着用や消毒など感染予防策も報道したことで、感染者数の抑制にも役立った。

●コロナについてはまだわからないことばかり。わからないことが多いと人は不安になり、出口を示してほしい、正解を教えてほしいという気持ちになる。自分の感じていることと同じようなことを言ってくれるコメンテーター・専門家の話を聞きたくなる。本当はどんな専門家も不確かな情報に基づいて仮説を論じているにすぎないはずだが、はっきりした言葉が好まれることになる。

●コロナを煽る報道や専門家が出てくる一方で、「コロナはもう大丈夫」という報道、専門家も出てきた。どっちを信じていいのか全く分からなくなる。色々な番組を見ると、出ている人によって言うことが全く違い、見れば見るほどストレスが溜ってくる。コロナの怖さを煽る側と怖くないという側が「朝まで生テレビ」のようにきっちり話し合う手もあった。

●コロナ報道と社会の動きを見ていると、東日本大震災の時と重なった。経験したことのない災害で、先が全くわからない。ところが人はだんだん慣れてきて、次には飽きてくる。

●「羽鳥慎一モーニングショー」では岡田晴恵さんと玉川徹さんがコロナがいかに危ないかということを言い続けた。その時点ではそれが正解だったと思う。その後コロナは大したことないと舵を切る番組も出てきて、今はトップに持ってくる番組はなくなった。取り上げない番組も増えてきたが、今後感染が広がる時には、これまでの報道の教訓を生かしてほしい。

●スタジオ出演者の数を減らしてオンライン出演にしたり、アクリル板を置いたりという変化を見るにつけ、どこまで非日常の状態が続くのだろうかと不安だった。今はスタジオで離れて座っていることが自然に見えるしつらえになっていて、オンラインの画面も生出演と区別がつかないほど美しくなっている。工夫と順応性に人間のすごさを感じる。
●営業を続けたパチンコ店への激しいバッシングもあった。報道が直接差別を煽っているということはないが、SNSが炎上して特定の人たちへの攻撃に繋がっていった。感情に働きかける力が強い映像の取り扱いには注意が必要だ。

●感染者やクラスターが出た場所を特別視し、非難するという状況があった。不安が誰かを傷つけることがないよう、冷静な情報収集がより必要である。

●スポーツにおける集団生活で感染者が出たことが悪いのではない。感染者が出ても大きなクラスターが発生しなかった場合は、こういう対策をしていたからここで収まったという報道も見たかった。

●帰省した人への誹謗中傷のニュースにも当たり前と思う人と差別だと思う人がいる。その時々の立場などによって一つのことの受け止め方が大きく違ってくることを改めて感じた。

●「報道ステーション」の富川悠太アナウンサーが自分の抗体検査の報告をし、この後どうなっていくのか、どんなことに気をつければいいのかを自分の言葉で話したのはよかった。仕事に対して踏ん切りがつき自信が持てた表情が見て取れた。

●富川アナウンサーの抗体検査の報告は、一度感染した人がどんな感覚で、どういうことに注意しながら、どのように生活しているのかがわかり、見応えがあった。

<テレビの役割と今後の課題>

●高校野球の交流試合で、甲子園大会でなくても与えられたチャンスに全てを懸けて戦う球児の姿に感動した。「報道ステーション」では、選手のストーリーや背景を丁寧に見せてくれ、興味深く、より感動した。スポーツは規模や場所でなく、一人一人が100パーセントの思いを持って懸けることが、胸を打つことがわかった。テレビを通して観た今年の夏のスポーツは無観客を感じさせず、今まで以上の感動があり、テレビの力を改めて感じた。

●テレビは、家にこもることを強いられた視聴者を励まし、楽しませてくれた。不安でニュースが見られなくなった時、バラエティーやドラマに癒された。報道が詳細になればなるほど同調圧力や画一的な空気が生まれたが、その一方で人々はエンターテインメントを求める心を失わなかった。

●クイズ番組や「博士ちゃん」に気持ちが救われた。知的好奇心が満たされることは精神の安定につながる。コロナについても知識や対処方法が自分の中に蓄積してくると、この程度なら大丈夫といった判断が出来て安心できる。

●色々なネットメディアに新たに接する人が多くいる中、テレビができるのは、実際のことを正確に裏付けして伝え、信じられるものだということを示し続けること。事実、現実、現状を愚直なまでにきちんと伝えていくという積み重ねが報道にとって重要である。

●本質的な問題や中長期的に追うべき事象に迫れているか常に点検しなくてはならない。感染者数に目が奪われがちだが、実効再生産数や重症化率、病床の状況などを総合的に勘案して、今の感染状況を常に知らせる必要がある。それに関する情報開示を政府や自治体に迫ることもメディアの役割である。

●2つの異なる考え方がある場合、対立を固定化したり、対立を深めたりするのではなく、対話を促すような情報を投げかけ、新しい合意を作り出す。メディアがその役割が果たせると望ましいが、残念ながら十分にはできていない。

●今の状況は簡単には終わらないだろう。この状況にどう対応していくか、社会としての合意を作っていくためには、政府・自治体・市民が信頼感をもって冷静に議論することが必要である。メディアはその土台となるきちんとした情報を日々提供していかなくてはならない。

●Go Toトラベルが観光業界の追い風になっているのか、うまくいっているのかいないのか、どの報道番組でも検証していない。こういう事実の検証は報道・情報の役割である。

●これからのコロナ報道は、社会的な不安をいかになくし、経済を回していくために、どのように力になれるかという観点に踏み込んでいってよいのではないか。地方の人は東京の人と接することを怖がっているが、年齢別・地域別の感染状況を詳しく説明し、東京の人もこれぐらいしか感染していないと知らせれば、東京と地方の行き来もできるようになり、経済を回すことに繋がるのではないか。

<BPO放送倫理検証委員会決定について(「スーパーJチャンネル」業務用スーパー企画)>

●意見書で指摘されている制作現場の構造的な問題解決のために、制作者が情熱と誇りをもって仕事ができる環境の整備に向けて、不断の努力を続けてほしい。

●夕方の報道番組のVTR企画は“撮れ高主義”の温床になりがち。特集のあり方そのものを見直し、夕方の報道番組の改革に乗り出してほしい。

●考え方を変えるべきテレビの転換期である。やらせをしたいわけではなく、面白く見せたいからする。面白く見せることが自分の仕事だと思っている。これは規則を変える、上司が指導するというだけでは変えられない。みんなが声を掛け合い、色々な角度から一つの問題を語り合わないと同じことを繰り返す。今回の「スーパーJチャンネル」の問題について、番組単位、部署単位で、自分たちだったらどうしたか語り合うべき。話して注意し合い、お互いへの興味を持つ優しさがあれば、大きな事故は防げるのではないか。

●在宅勤務が多くなると、人々の心模様、生活のテンポも大きく変わる。テレビをゆったり見る時間もできる。「スーパーJチャンネル」で撮れ高を求められる背景には、スピード感を持たせて、見る人を飽きさせない狙いがあったと思うが、視聴者が求めるものが変われば、そういった番組作りは合わなくなる。アフターコロナでは、そういう観点で“撮れ高問題”を考えて欲しい。

<局側見解>

●いたずらに不安を煽ることなく、その時点でわかっていることを、そのリスクも含めて、きちんとわかりやすく伝えるという務めを果たしていきたい。

●コロナ報道の最前線で日々決断してきたが、それが十分だったのか正しかったのか、評価が下せずにいる。今後の感染の波にこれまでの経験を生かしていきたい。

●感染防止に対する制作ガイドラインを徹底し、良質なエンターテインメントを視聴者に提供していきたい。

<亀山社長・COOからの報告>

●年間視聴率・年度視聴率
【個人全体】全日2位、ゴールデン3位、プライム2位
【世帯】 全日2位、ゴールデン3位、プライム1位(日本テレビと同率)

●BPO放送倫理検証委員会決定について報告
昨年3月放送の「スーパーJチャンネル」業務用スーパー企画について、登場した主な買い物客らが番組ディレクターの知人だったとして審議されていた。
9月2日、BPO放送倫理検証委員会は、「取材の過程が適正とは言い難く、内容においても正確ではなく公正さを欠いており、放送倫理違反があった」との判断を示した。
意見書では、当該ディレクターは、密着取材での撮影成果、いわゆる「撮れ高」が悪いと強く叱責されていたなどとし、企画に沿った映像を効率的に撮影できる「仕込み」の誘惑にかられたのは、個人のモラルだけでなく、「撮れ高至上主義」が制作現場に潜んでいたためではないかと推測している。
また、「仕込み」を見破るチャンスについて、作業過程でADや放送作家、編集マンから問題点の指摘はあったが、いずれも個別に過ぎず、それが複数の番組スタッフで共有され議論されていれば、放送には至らなかったのではないか、との見方が示された。
さらに、当該企画の制作会社との関係が深いことから、「“身内意識”を拭い難く、番組を仔細に点検して納品を受ける意識を持ちにくかった側面があったようだ」との指摘もあった。
なお、当社が記者会見を開いてこの件について説明したことなどについて、「テレビ朝日が問題を把握した後ただちに内部調査を開始し、その結果を視聴者に公表し、併せて局内においても事案と問題点を説明、共有するなどした自主的・自律的な対応は迅速かつ適切あった」との評価をいただいている。
BPO委員会決定の概要を、発表当日の「スーパーJチャンネル」と「報道ステーション」で視聴者に報告した。今回の決定を真摯に受け止め、再発防止に取り組んでいく。
以上